三流物書きを目指すたつきに薔薇を スカトロ別館

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本茂家の交換日記 ラブラブ! 面佳とみしる編

「本茂家の交換日記 ラブラブ! 面佳とみしる編」

 糞を食べるのは楽しいけど、楽じゃない。


 食糞はそう生易しいものじゃあない。
 一口に食糞と言っても、いくつかの段階を踏んでいかなければならない。
 階段を上るように、一段一段ゆっくりと。
 そして、その階段はある段階から急に高く険しくなる。
 と、文章にしてみれば、以外と私でも出来るんじゃないだろうか? なんて考えてしまう。
 糞を出し、糞を手でつかみ、口に運び、咀嚼して、嚥下する。
 たったそれだけ。
 だのに、糞を食べるという行為は、そう生易しいものじゃあない。
 冷静な気持ちで、落ち着けば落ち着くほど、その行為自体が嫌になってくる。
 もっと興奮しないとダメなのだろう。
 けれど、私はどこか常に一歩引いてしまう。
 面佳さんのことは好きなのに……
 そんなことをつらつらと考えていたら、いつの間にか講義は終わっていた。
 未だに九十分の講義には慣れないし、終わりにチャイムが鳴らないのにも慣れない。
 ゴールデンウィークは目と鼻の先だ。
 そろそろ、大学生活に慣れを感じてもいい頃だと思う。
 けれど、私は今一つ大学生になった気概みたいなの物を感じられない。
 それは周りがどうこう、この学部がどうこうではなくて、私自身がだ。
 制服を強要されていた高校の頃とは違い、私服を自由に着ても良いといわれても、そんなに服のバリエーションはない。
 かといって、毎日毎日同じ服を着るのも恥ずかしいが、服にお金をかけるほどの余裕もない。
 結局、三日のローテーションで服を着ている。
 自意識過剰という言葉もあるので、周りはそれほど気にしていない、はずだ。
 女友達でも居れば、毎日の厳しい服装チェックが入るのだろうけど、私には関係がない。
 何よりあのやたらめったら着るのが複雑そうな服は、どうにかならないのだろうか。
 あんな服を着ていたら、トイレの中で全裸になるのが大変じゃないか。
「普通はそんなことしないよなあ」
 ぼそっと独り言。
 大学生になってから増えたなあ、と思いつつも止められない。
 私が糞を口に含む習慣がついて、まだ三週間。
 もうさすがに、いきなり嘔吐することはなくなった。
 それでも、出先で服を汚さないよう、トイレでは全裸になるようにしている。
 口に含み始めた直後、四月の中ごろに昼ごはん共々吐いてから、少しトラウマになっている。
 あのときは、吐瀉物で汚れた服をかばんで隠しながら電車で帰った。
 ジーンズから酸っぱい胃液の臭いと糞の臭いを漂わせながら帰るのは、さすがの私でも恥かしかった。
 早く家に帰ろう。
「やあ、もう大学は終わったのかい」
 はい、と返事をしながら靴を脱いで、部屋に入る。 
 相変わらず狭い玄関。
 私と面佳さんの靴でもう一杯になっている。
 そのおかげで、よくスケベな漫画にありがちな「レズを装って若い子を部屋に連れ込み、男に犯させる」という展開を想像しなくてすむ。
 さすがに現実でやるなら、靴ぐらい隠すと思うのだけれど。
「うん、今日はバスが空いてたから」
 電車の乗り換えの都合で、面佳さんの部屋に行くときはバスの方が早い。
 けれど、面佳さんの部屋に行く日はバスが混んでいるので、普段は電車で通っている。
「今日は近所の高校がテスト週間だからだろうね」
 なるほど。
 そうえば私も去年のこの時期は、受験に中間にと忙しかった。
 特に私みたいな推薦入学を狙うある意味真面目、ある意味狡賢い生徒は必死だった記憶がある。
 手を洗って、服を着替えてから、面佳さんの正面に座る。
 いい加減コタツしまわないとなあ。
「あれ? 面佳さん何書いてるの?」
 面佳さんがノートと鉛筆を使っている姿は珍しい。
 普段ならパソコンを使うのに。
「んー、これ」
 とノートを立てて表紙を見せてくれる。
 やたらとファンシーな絵柄だ。
 裏表のどちらにも、ひよこやウサギなどの可愛らしい動物がわんさか書かれている。
 表表紙の方にリボンでタイトルの枠が作られていて、そこには
「本茂家の交換日記」
 と書かれていた。
「うん、一番下の妹が文字の読み書きをするようになってね」
 面佳さんの家は兄弟が多いらしい。
 細かい数は聞いたことがないが、一番下の妹さんのことは知ってる。
 たしかもうすぐ小学校入学だったかな。
 だから、面佳さんとは親子ぐらい年が離れているはずだ。
「それで、彼女を鍛えるために軽く日記をつけようと思ってね」
「……私のこと書いた?」
 あることを思い出して、少し強めの声で聞く。
「家族のプライバシーだよ、みしるだって弟さんとメールしてるけど、私が内容を聞いたことないだろ?」
「そうだけど…… 恥ずかしいこと書かないで。羽歌ちゃんは、未だにあの時のこと冷やかすんだから」
 羽歌ちゃんとは、同じ大学の友達で面佳さんの妹。
 私と面佳さんの出会いの切欠を作ってくれた大事な友達だ。
「あの時って?」
 わざとらしいボケた声で聞いてくる。
「だから…… その……」
 しまった。
 面佳さんが私に恥ずかしいことを言わせようとしているのが、よくわかる。
「言ってくれないと、交換日記にあることないこと書いちゃいそうだなあ」
 なんだか、こうするために交換日記を始めたんじゃないかと、疑ってしまう。
「だから…… 私が……」
 公衆の面前でもなく、面佳さんと二人きりなのに恥ずかしい。
 なんというか、まだスイッチが入りきってないからだろうか。
 普段のそういう時とは違って、まだ気分が乗っていないからか、やたらと照れてしまう。
「ちょっと待ってて」
 そう言って、コタツをでて台所に行ってしまった。
 何を持ってくる気だろう。
「いやー、喉が渇いてね。それで、みしるは何を言いたいの?」
 やっぱり、この人嫌味だ。
 喉が渇いたなら、いつものカップで飲めばいいのに、わざわざ”あの”紙コップで飲むことないじゃないか。
「私が…… 飲んでるところを羽歌ちゃんに見られて……」
「何を飲んでたの?」
「……その。……えと。……うんこです」
「えー、おかしいなあ、うんこは固形だから飲むじゃなくて、食べるじゃないの?」
「……いや、だからその、面佳さん」
 なんだか悲しくなってきた。
 どうして責められなきゃいけないんだろ。
 肩が震えて、唇が上手く閉じられない。
 なんで、こんなことさせられなきゃ……
「言えないの?」
「……はい」
 私はそういう気分じゃないのに、無理やりそういう話をさせられた。
 面佳さんが身勝手で傲慢な人に思えてくる。
 けれどそれと同じぐらい、早くスイッチを切り替えて面佳さんに合わせれなかった、自分も悪いとも思った。
「ふーん、じゃあもう、やめようか」
「やめない!」
 思わず立ってしまった。
 興奮していたのか、声も大きく出てしまった。
「じゃあちゃんと言ってごらん。どんなうんこをどうしてたのを羽歌に見られたのか」
「面佳さんのゲリウンコを紙コップに入れて口に含んでるところを、羽歌ちゃんに見られたんです!」
 言った瞬間、頭に血が昇るのがよくわかった。
 何かにこの衝動をぶつけたい! と頭の中で処理するよりも先に、体は動いていた。
 お茶のペットボドルを床に投げつける。
 カーペットだからか音はほとんど響かず、空いた口からお茶がこぼれる音だけが、部屋の中を一杯にする。
「なに怒ってるの?」
 責めるような口調。
 私が悪いんじゃなくて、面佳さんが私を怒らせたのに。
 なんで、私を責めるんだろう。
「……だって」
 なにって、そんなこと説明しなくたって、わかって欲しい。
「私のゲリウンコでも良いから口にしたいって言ったのは、みしるだよね?」
「……そうです」
「しかも、透と違ってちゃんとお腹に入れることも出来ずに、途中で流すくせに」
「……透はできたの?」
「もちろん、彼女はその後吐くにしても、必ずお腹の中におさめてから、吐いてたよ」
 透に出来て、私に出来ない。
 私は透より劣っている。
「ねえ、みしる」
「はい」
「うんこ食べる?」
「……はい」
 例の紙コップに糞をして、面佳さんが戻ってきた。
「はい、お昼に出したから、あんまりないけど」
 黙って手に取る。
 紙越しに暖かさが伝わってくる。
 どちらかといえば、香ばしい匂い。
 匂いの質は兎も角、臭い。
 水気がほとんどないせいか、あのゲリ糞ほどではない。 
 けれども、臭いものは臭い。
「ありがとうございますは?」
「……ありがとうございます」
 小さい塊が二つと、中くらいの塊が一つ。
 私は意を決して、小さいのを指で掴む。
 指先が硬いとか柔らかいを感じるよりも先に、あの糞を口に入れたときの不快感が頭をよぎった。
 けど、指を口に運ぶ。
「早く食べなよ」
 真正面の面佳さんがじっと私を見ている。
 目が合うたびに、私はこの糞が愛しい物に変わっていくのを感じる。
 糞を口の中に入れる、ただそれだけが、出来ない。
 でも、食べたい。
 そう、私は面佳さんの糞を食べたいんだ。
「はい……いただきます」
 いただきます、のすの口を開けたまま、糞を放り込む。
 舌の上に乗ってもいないのに、その瞬間その匂いが喉を通じて、胃にくる。
 気持ち悪い、吐きたい。
 でも我慢する。
「顔ゆがんでるよ」
 注意されるけど、上唇と下唇をゆがませてしまう。
 我慢。我慢。我慢。
 必死になってお腹を押さえて、吐き気がどこかに行くのを待つ。
 その間鼻で呼吸するたびに、糞の匂いが体中を駆け巡っていくのがわかる。
 糞を持っている右手も、正座している足も、面佳さんを見ている目も。
 体中全部、面佳さんの糞になった気分だ。
「咀嚼できないの? また吐くの?」
 噛む。
 この糞を噛む。
 そう自分に言い聞かせて、顎を上下させる。
 粘土を噛んだような感触。
 歯や頬が糞に染まっていく。
「おーすごいすごい」
 褒めてくれてる。
 それだけで、私は嬉しくなってもっと、噛み噛みする。
「口の中開けてみて」
 言われた通りに、口を開ける。
 自分の口の匂いでまた、吐き気がしてきた。
 なんて臭いんだろう、咀嚼したときの唾液と混じって水気が出たせいか、ゲリ糞のときのような匂いがする。
 そうか、面佳さんの糞よりも、私が噛んだ糞の方が臭いんだ。
 私の方が臭いんだ。
「んー、ちゃんと全部の歯で噛んでる? 噛んでる振りしてるだけで、歯を使ってないんじゃない?」
 そんなことはなかったけど、言われたらしょうがない。
 全部の歯が均等に糞色になるように、噛む。
 奥歯でも、前歯でも噛む。
「そうそう、そうやって頑張って」
 肘をつきながら私を見る面佳さんの視線を感じながら、私は糞を飲み込もうとする。
 けど、喉が嫌だ! と叫ぶ。
 なのに、口の中が糞と糞色の唾液で一杯になったせいで、少しずついやがおうにも飲み込んでしまう。
 糞の解けた唾液が食道を通って、胃液と混じっていくのを想像すると、その胃液を吐き出したくなる。
「おお、すごいすごい、飲み込めるじゃん」
 私は面佳さんが排便する姿を見たことが無い。
 だから、もしかしたら、これが面佳さんの糞じゃなくて、誰か別の人物かもしれない。
 そんな気持ちが私が食糞できない理由の一つかもしれなかった。
 けれど、私は今はこの糞を胃に入れる。
 透と同じぐらい面佳さんに好きになってもらう、それだけを考えて糞を食べ続ける。
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